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== イラスト企画 ==

おやすみ、サリー



illustration by こんな世の中(和隆さん)/novel by Noisy Kitchen(朔花)

*流血・同性愛描写(♂×♂)


眠りから覚める時、最初に目にする物は決まっていた。
夜空を切り取る大きな窓ガラス越しに、金色に膨らんだ月。

何しろ今まで濃密な暗闇に呑み込まれていたのだ。
蓋が開かれれば、月明かりだけでもう瞼を震わせる程の眩しさ。
棺の寝床は光に敏感。
そして此の狭い空間が、サリーと名付けられた少年の世界。


此処に閉じ込められている限り、一人で起きる事すらも侭ならないのだ。
光が差さなければきっと意識は永遠に闇の中。
空を隠していた覆いを持ち上げるのは、いつだって外からの力だった。

すぐ傍らと呼べる距離にも金色。
散らばった無数の星を従えて、遠い夜に圧し掛かる月とは違う。
煌々と降り注ぐ光を梳いたような髪。
真っ向から此方を見据える、翡翠の瞳を持つ青年が一人。

棺に跪いたドクターが上から覗き込み、視線が絡んだ。
感情も言葉も無いまま不意に微笑む。
そうして長い指で髪を撫でられるのが、「おはよう」の合図。


此の手が無くては"自分"と云う認識を持って存在する事が出来ない。


事故で壊れた身体、失いかけた命、今のサリーは何も持っていなかった。
そのまま世間的に「亡くなった」事にされた存在。
辛うじてドクターが繋ぎ止めて、縫い目の残る歪な姿で此処に居る。

棺で暮らす前の記憶もほとんど無いので、そう聞かされれば頷くまで。
それに丸っきり何も覚えていない訳じゃない。
落下の瞬間と切断された脚。
酷く遠過ぎて曖昧でも、そんな事もあったと頭の片隅にこびり付いている。

薄く尖った光を初めて見た時から、夜毎に満ちていく月。
その確かな数日間だけがサリーの全てだった。


痩せ細った四肢は投げ出されたまま、芯が溶けた錯覚で動けない。
眼を逸らせない翡翠色。
求めて手を伸ばし、今まで息を殺していた神経が吹き返す。
触れた事で絡め取られたのは此方。

引き寄せられた口唇が重なる。
恐ろしい程の静寂に水音が零れて、逢瀬の始まり。


ドクターの指先が首筋に滑る時、いつも跳ね上がりそうな痺れが駆ける。
ボタンを外されて抵抗も無く剥き出しになった肌。
温かな手に包まれる心地良さと、対する自分の冷え切った肌を知った。
サリーを組み敷く形になった相手の肩越しに、あと少しで満ちる月。

今日もきっと太陽を目にする事は無い。
空が明るくなる前に棺は閉ざされ、また一人で夜を待つのだ。

愛でられては眠って、それだけの繰り返しに思考は働かず放棄されたまま。
怠惰に一度沈んでしまえば浮上の気力すらも奪われる。
何もしなくても、全て委ねられる彼さえ居ればと。


それでも、深く潜り込んでいた暗闇に光を見てしまう事がある。
月を浴びるよりも少し前、瞼を閉じて映る夢の中。


穏やかに陽光が降り注いで、気が抜けてしまうくらい透き通った空。
もう記憶だけのものになってしまった色。
偽物なのに泣きたくなる暖かさと懐かしさを呼び起こす。
それでも脚の無い身体は変わらない。
ベッドで不自由を強いられ、ただ窓辺の青に眼を細めるだけ。

其処に恋人は現われた、花を抱えて。

片腕が塞がったまま真っ直ぐベッドに寄って、此方へ降りてきた手。
額に乱れた髪を払うと頬へと流れる。
幼子をあやすような指先は柔らかな安心感に浸らせてくれた。
恥ずかしそうに綻んだ顔に、花弁が舞い落ちる。

特別な事など何も無く、動けないままには変わりない。
されども光は一匙の甘さ。
胸が痛くなる切ない後味を残す、麗しき幻。


何もかもはっきりと"見た"訳ではなかった、所詮はもうただの夢。
瞼を開けば消え失せて曖昧になる。
幾度となく似た内容を繰り返している筈なのに、いずれも掴めない。
取り出して手触りを確かめられたら良いのに。

願ったところで、あれは届かない過去。
太陽の下で呼吸していた頃の残骸はこうした形で浮き上がってくる。
堕落しきった日々に対する警鐘だろうか。


けれど、ふとドクターの話との相違点が生じる。
事故の直後に棺行きだったと聞いたのに、あの光景は何だろう。
引っ掛かりを感じても晴れない頭では答えが出ない。
それから、妙な現実味を持って覚えている事が一つだけ。

恋人の手は冷たかった。



棺の蓋が外されて暗闇が終わる音、また月明かりで目覚める。
頬が冷たく濡れているのは涙の所為。
睫毛の雫で金色が滲み、その姿を明瞭に把握出来ない。

ドクターの指先で拭われて視界が戻る。
何日も掛けて増していった最高潮の光、今宵は満月。


隣へ寝そべって同じになる目線。
窓枠の十字が影を落とし、細い身体にはコントラストを浮かせている。
棺で硬くなっていた手足をぎこちなく絡めた。

手元を見てみれば、先程までの夢と現実が突然重なる。
今日は小さな花束を携えていた。

一日中ずっと密閉状態でどんよりとしていた内部。
棺に散らされると淀んでいた空気に甘ったるい香りが混じる。
サリーの髪にも挿して花を咲かす。
ドクターは満足げに微笑んで、その温かな手で肩を抱いた。


瞬間、鮮烈な痺れに似た違和感が全身を貫く。
此の手ではないと。


突き動かされるまま、眼前の首に結ばれた深紅のタイを握った。
拳に込められた渾身の力。
指の骨に押し当たる、喉仏を潰そうと。

ああ、そうだった。

呼び起こされた記憶は残酷であっても真実。
そうだ、彼だった。
少年と、少年の恋人を殺したのは。



突然の事故は、訳も無く自由を奪い去っていった。
脚を断たれても命があるだけ奇跡。
ほとんどベッドに縛られる生活になってしまったが希望はあった。
その傍らには、身の回りを世話してくれる恋人が居たから。

燦々と輝く太陽にも似て強い少女だった。
野の花を摘んでは届け、嫌な顔一つ見せず毎日を共にしてくれた。
空を睨んで独りきりの少年に差し伸べられた手、心地良い冷たさを覚えている。

幾ら礼を述べても感謝が足りないと同時に、苦しかった。

手を繋いで歩くどころか、ベッドから出る事すら叶わない身体。
こんな自分に何の価値があるだろうか。
単に彼女の負担になってしまうだけだと考えたら怖かった。
日毎に少年は心を病み、情緒不安定に陥り始める。

いっそ見捨ててくれた方が良かった。
近いうちに詰り合いで終わったとしても、それは仕方ない結末。

少なくとも彼女だけは幸せになれたのに。


こんな想いを抱えていたある日、彼は現われた。
月光を紡いだ髪の悪魔が。

「脚が欲しいかい?」

囁きに頷いてしまった後で、少年は脚を切られるより深い痛みを思い知る。
悪魔との契約は代償が必要不可欠。
そして、其れは自分の一番大切なものだと云う事も。


再び静寂が戻った時、漆黒だった夜は深紅一色に顔を変えていた。
視界の端には刻まれて無残な少女の亡骸。
今しがた切り落としたばかりの脚を、悪魔は与えて縫い合わせた。
止める事も逃げる事も出来ず。
絶望と後悔で自我を粉々に砕かれていた少年に。

そして首を締め上げられたのも此の深紅のタイだった。
意識は暗闇に落ちて人間として死を迎えようと、悪魔が手を加えた身は滅ばず。
言うなれば、あれはリセット。
頭の中も弄られて余計な物を全て消す為の。

動くようになっても糸で繋がれただけの身体。
こうして鋭い月夜に目覚めた時、化け物として棺で生まれた。



「ああ、また失敗……」


喉を押し潰されて掠れていても、確かに呟かれた声。
骨と皮のサリーに絞殺する力は無い。
躍起になっている腕をシャツの上から弄られれば、糸の切れた肘が落ちた。
余裕綽々な悪魔の手によって。

ずっと布に隠されていたから自分でも気付かなかった。
此処にも新たな切断面はあったのだと。
サリーが暴走した時の為、こうした事態は予測の範囲か。

反撃は表情一つ変えず、同じ方法で。
腕まで失った少年の首に巻かれたタイが、慣れた手により喰い込む。

息遣いが弱まる中、愛しい少女の呼び声が聞こえた気がした。


そうして不意に少年は思い出す、本当の名前を。
自分はサリーではないと。

"サリー"は童話に登場した継ぎ接ぎ人形。
傲慢なドクターの手で生み出され、何処にも行けず自由を夢見る。
少年と同じ哀れな存在。

思い通りに動かなくなれば記憶を消されてそれこそ何度でも戯れる。
人形は玩具でしかないのだ、悪魔にとって。


欺くして、また明日の夜に茶番劇は幕を開ける。
それまで暫しのお別れ。
悪魔が人形にすっかり飽きてしまうまで、繰り返し。





***
イラスト企画、第一弾はこんな世の中の和隆さんからのお題。
拝見した時、最初に注目したのは右の子の脚でした。
継ぎ目があるって事は、若しかしたら別人の物なんじゃないかな…
だとしたら誰の脚?と考えて膨らませたのが此方の話。

ファンタジーも耽美っぽい文章も久々なので、筋はすぐ組めたのに
表現で時間掛かってしまってやたら苦労してしまいました。
こんな仕上がりですが、お気に召していただけたら幸いです。

でもって、童話は「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」です。
トラウマがあるのでちゃんと観た事無いけど…あらすじだけなら知ってる。

和隆さんご参加ありがとうございました!
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