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アスタリスク杞憂(鞍吉+和磨)

キミホシ一周年と縹さんお誕生日おめでとうございます!


「もー良ーいかい?」
「まーだだよ……つか、別に待たなくて良いし。」

返事したくせに、素っ気無く乾いた声。
紺藍色の頭は考え込んだままで和磨の方を見やしない。

隣に立ってみれば、開かれたガラス戸から冷気が顔を撫でる。
形から色まで様々なパッケージ。
冷凍ショーケースのアイスクリームは選択肢が多い。

カフェの制服を脱いだ後、一番近いコンビニにて。


担当場所は違えども、休日の鞍吉と和磨は朝から夕方まで同じ時間。
途中まで帰りも一緒なので歩幅を合わせる。
折角労働を終えたところだし、とちょっとした寄り道。
居心地が良いもので、ついコンビニは足が勝手に向かってしまう。


和磨が購読しているコミックの最新刊は、その場で開いて続きだけ目を通した。
待たせてしまったかと思えば、ショーケース前から鞍吉はなかなか動かず。
此ればかりは迷う気持ちも充分解かるものの。

「どれで悩んでるの?」
「バニラモナカか……、ソーダも良いな。」
「じゃ、僕ソーダにするから一口ずつ交換しよっか。」
「え……、良いのか?」

幸せな悩みでもあるが、二人居るなら簡単に解決。
レジ袋を下げて薄闇の街へ戻って行った。


音も立てずに季節は巡る、6月になってから曇天の日が増えてきた。
今年は早かった湿っぽい梅雨。
強い陽射しで茹だる前、大地がたっぷりと水を飲む時期の到来。

陽は落ちてきたが、まだ周囲の物を判別出来る藍色の空。
点々と光を与える灯りが眩しいくらい。
月も星も見えない漆黒までは少しくらい間があった。
包装紙を破く音が二つ、静まり返った夜風に甘ったるい匂いが混ざる。

「生きてるって素晴らしい!」
「……ビール飲んだ親父の台詞みてぇだな。」

最初の一口が格別な心地良さ。

きゅっと口腔を引き締める冷気に、体温に溶ける甘さ。
涼やかなソーダが疲れた身体に染み込む。

約束を忘れないうち、交換して二口目は相手に譲る。
滑らかな味わいのミルクとバニラ。
凍えそうな舌にはモナカの食感も優しい。
食べ歩きするなら、確かに棒アイスより此方が適しているかもしれない。

「夜で良かったよね……男同士で食べさせ合いとか、変な目で見られちゃうもん。」
「……そうだな、しかもカップルでもないのに。」

ふと人目を考えれば、思わず冷静な苦笑が揃ってしまう。
水を差すようだが事実でもあり。
真昼間の明るいうちなら注目されても仕方あるまい。


しかし、どうやら鞍吉は闇夜がつまらないらしい。
表情がよく見えなくても判る、そんな雰囲気で空を見上げていた。

「どうせ今年も雨だろうな……、七夕も。」

気が早い話ではあるが、一ヶ月先なんて本当にあっという間。
梅雨と時を同じくする星の祭典。
今頃しか見られない空を逃してしまうのが悔しいのだろう。
どちらかと云えば、花や緑の方が好きな和磨からすれば大問題でもないが。
しばらく月すら顔を出していないのは、確かに味気無いか。

「ちょっと寂しいけど風物詩だからねぇ、天の川も梅雨も。」
「織姫と彦星も逢えなくなるって云うしさ……」
「えっ、マジで?」
「えっ、有名だろ……?」

そんな逸話は全くの初耳だった。
和磨が驚くと、その反応に鞍吉の方もきょとんとする。

何しろ、雨の受け取り方は丸っきり正反対。

「そっか、僕は「七夕は雨の方が良い」って聞いて育ったんだけどな。」
「雨だと天の川が増水して渡れなくなるんじゃねぇの……?」
「天の川って雲の上にあるんじゃないの?影響無いよ?」
「…………あっ。」

昔話は地方や世代によって大なり小なり変わってくる。
和磨が知っていたのは以下の通り。

折角の年に一度の逢瀬、下界の人間からじろじろ見られては堪らない。
そこで、雲が目隠しになって二人を守っているのだそうだ。
聞かされてきた話でも本でも此のパターンだけだった。


「星はどんなに年月経っても変わらないもん、雨に負ける訳ないって。」
「こうもあっさり言われると小馬鹿にされた気がするな……」

モナカを齧って口篭もる、拗ねたような低音。
鈍いようで繊細な鞍吉の事だ。
織姫と彦星の悲恋に関して、感傷的になる部分もあったのだろう。

それに、肝心な問題は動かない。

「……でも結局、年に一度しか逢えないのは変わんねぇだろ。」

対する和磨は、ロマンチストのようでシビア。
そもそも、引き離さなければ一切仕事をしなくなってしまうのだ。
東洋だろうとも怠惰は大罪に変わりない。
原因が彼ら二人にある限り、自業自得だとしか思えなかった。

なんて伝えたら、きっと鞍吉は渋い顔で黙り込んでしまう。
和磨がソーダを舐めながら返事を遅らせている理由。

自分の考えそのままを臆さず口にするので他人に煙たがられる事も多々。
それでも構わずに生きて来たつもりの和磨も、少し躊躇う。
情緒を壊してしまうのは流石に気が咎めた。


「確かに遠距離恋愛って無理そうだね、鞍君は。」
「年に一度ってきついに決まってんだろ、普通は……」

釈七と同棲している今ですら、不安が消えていない鞍吉の事だ。
隙間無く抱き合おうとしても壁を壊そうとしない。
その向こう側、いつまで経っても膝を抱えて蹲っている部分。
相変わらず「自信が無い」に尽きるのだろう、愛する事も愛される事も。

故に、双子を誰よりも深く想える和磨が羨ましいと言う。
其処は揺らがない自信がある、けれど。

「たった一日でも「絶対ある」なら良いけどね、僕は。」

それは強さから来る言葉ではなかった。
寧ろ、溜息に近い響き。

好意を示しても、関係を持った後でも、散々冷たくされてきたのだ。
愛の言葉を毎日伝えたって応えてくれるのは気紛れで不確か。
普通の交際や幸せなんて望めない相手。
心を麻痺させて受け入れなければ、此方が壊れる。

繋がりは信じていても彼らに何も期待していない。
ずっと向き合ってくれる日が決まっているなら、まだ幸せだろうか。


とは云え、此れも口に出すには二の足を踏む。
双子の感情を育てるのは他の誰かでも良かった事くらい分かっている。
それでも、「嫉妬」だけは和磨でなければ与えられなかった。
常に自分だけを見るよう引き寄せる楔波と、あぶれる事を嫌う紫亜。

鞍吉と釈七も、結ばれてから新たな面を見せてくれるようになった。
お互いが相手だからこそ知った感情がある筈なのに。
幸福よりも痛みが強くて、もがき苦しんでいるのかもしれない。

鞍吉が話してくれないから推測ばかりになってしまう。
口を開かなければ、窒息するのに。

揃いの指輪に誓っても生きている人の心情は変化を続ける。
今日は身を潜めていた疑心暗鬼が、不意に明日襲ってくるかもしれない。
鞍吉に限らず、異性でも同性でも同じ事。
考え込みながら和磨の自由な薬指はピアスを弄った。
銀の環の代わりに望んで、左右それぞれ双子に撃ち抜かれた傷。


そうこうしている間に刻々と薄闇は深まっていく。
和磨が訳ありな台詞を放置してから数秒。
意味を図りかねて、灯りに浮かんだ鞍吉の表情は小難しい。

さて、どうしたものか。

そこで思い出した、丁度良い物を持っていたのだ。
ソーダを咥えたまま探った手元の鞄。


「だって……、逢えたの本当に一年ぶりだもんねぇ、此の子達とも。」


先程アイスと一緒に買った、漫画本を大事そうに取り出す。
濡れてしまうからコンビニ袋とは別にしていたのだ。
待ちくたびれた声で和磨が呼んだのは、表紙のキャラクター達である。

隔月発行誌の連載なのでストーリーを追うなら単行本で纏めて読む。
書店に出回るのは年に一回、忘れた頃に。
それだって仔細情報は近日にならなければ分からない。
保証があるだけ、七夕の逢瀬の方がよっぽど確実。

鞍吉がぽかんとしてしまうのもご尤も。
笑って良いのか呆れるところなのかと、予想通りな反応。

とりあえず静かな重みの空気は去った。

「え、ちょっ……お前の恋愛感情って漫画レベルなのか……?」
「こんなに苦しいなら好きになるんじゃなかった!ってなっちゃう点は同じだよ。」
「いや、力説されても……神妙な顔するから何かと思ったじゃねぇかよ、おい。」
「それにさ……、逢えた時は嬉しくて一杯になるんだ。特別だからね。」

待つ事が辛いなら、とっくに止めてる。
天の川を挟む織姫と彦星だって別れているだろうに。
続いているのは「好き」が揺らがない証拠。


「たった一日だろ、そんな希望持てるもんなのかよ……」
「楽しい事なんて何でも刹那的だよ、アイスだって溶けちゃうしさ。」

もう棒に染み付いただけのソーダ。
名残惜しく舐めれば、鞍吉もモナカの欠片を口に放り込んだ。

輝いている筈の星一粒すらも覆い隠す、曇り空の夜。
仄かな湿気を含んだ風は涼やかに。
各々が提げた袋の中、まだ固いアイスも家までに形を保ってくれそうだ。

早く帰ってあげなくては。
夜でなくても隣に居てくれる人達へ、お土産。



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