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== 梅染街 ==

群青失楽園〈3〉(楔波×和磨×紫亜)

初めて会話した時も、ほとんど同じような事をされた。
ずっと楔波に対して苦手意識を持っていた原因。

ただ、あれは機嫌を損ねてしまった所為で少なからず和磨も悪い。
ならば今は如何なのだろう。
表情なんて自分では判らず、だから何だと云うのか。
紫亜の名前を口にした理由も。

「別に俺は構わないが、お前みたいなのを見てると紫亜が嬉しそうなんでな。
 ……誘ってるんなら別だが。」

訳も無く殴られるのかと思えば捕らえておいて解放も突然。
「誘う」なんて何を言い出すのだろうか。
手を離されてからも尚、和磨は痛む頭で続けられた台詞の意味を考えていた。

以前から紫亜にちょっかいを出されていて自覚もあった、確かに。
同性相手でも構わない双子は興味に境界線が無い。
故に、却って和磨は本気にしていなかったのだが、楔波の行動はどうやら忠告。
面倒事を避けたいだけなのか。
微量の可能性、心配してくれているのかもしれない。

判り難い上に、紫亜と如何こうなる訳などあるまい。
和磨に彼女が居る事も知っているくせに。


「誘うって何?本当にキスする訳じゃないんだから、顔近付けないでよ……」

余計な事を、と云うつもりで不機嫌な声と渋い顔。
けれども所詮は作り物。
骨張った手に顎を掴まれ、再び顔が近付いて一瞬で消し飛んだ。

「……して欲しかったんなら言えよ。噛み切っても知らんけどな。」
「……え、本気で言ってるんじゃない、よね?」

やはり強引な方法だったが、今度は痛みを伴わない。
無表情な金色を細めた低音。
不敵に歪んで、初めて和磨に笑ってみせた。
此方の強がりなんて見透かすように。


此れはきっと、楽園に棲んでいた蛇の眼。
触れそうな距離の唇は林檎。

振り払って立ち去っていたら、禁断を犯さず済んだのに。


「さぁ?して欲しいならすると言っただけだ。本気でな。」
「君なら相手に訊くまでもなく奪うと思ったけど……嫌じゃ、ないよ……」

不可思議な色の瞳に刺され、息苦しくて堪らない。
乱れた呼吸に熱が宿る。
視線を逸らして、とうとう和磨から降参の小声が零れた。

「奪う程の奴やない……」

捕らわれた顎が引き寄せられ、合わさる口唇。
林檎に牙は立てられた。


噛み付かれる痛みは炭酸飲料よりも鮮やかな刺激。
触れた瞬間に弾けて、全身に痺れが巡る。

昔から慣れ親しんだ物だった、人工甘味料のメロン。
舌先で楔波の唾液と混ざり合って眩暈がする。
自分とは全く違う、男の匂い。
今、キスされているのは確かに同性なのだと云う事実。

モラルの破綻か、彼女に対しての罪悪感か。
言い難い不安に襲われて苦しくなる。
唇を塞がれて、ただでさえ呼吸が侭ならないのに。

「んぅ……っ、お願い、手だけでも繋いでて……」
「ふ……お前、我儘な奴やな。キスしろ言うて手を握れと?
 ……何処まで誘ってんねん。」

思わず楔波の指先を縋ると、少しだけ唇を離しての舌打ち。
冷たい眼で見下されて総毛立った。
文句を言うなら、いっそ振り解いてくれれば良いのに。
和磨が求めた手首を引き千切れんばかりに握って引き寄せ、また口付ける。

舌を噛まれては、互いの歯列が当たって硬質な音。
このまま食べられてしまうのではないかと思う激しさ。
溢れた唾液が伝い落ち、掴まれた顎を濡らす。


鼓動の度、刻まれそうに痛む心臓。
血が煮え立つ。

いつも彼女と交わす時は甘い幸福感で一杯なのに。
こんなの知らない。
あまりに遠くて、現実感が無くなる。

「……やれ言うたんはお前やからな。
 ……俺が何の感情も無くしてるんには変わりない。」
「此処までするの、サービス?
 別に、好きとかそんなの無い事くらい解ってるし……」

和磨には「興味が無い」と言ったくせに。

楔波にきつく吸われた唇は真紅に染まる。
痛みに耐えながら薄目を開けた。
視界が滲むのは、惚けた緑に涙が溜まっていた所為。


「……は……気紛れ、かな。解かってる割りに期待してたような目してな。
 さっさと帰りな、日が暮れる……ふぁ。」

唇を繋ぐ糸は楔波から切られて、呆気無い終わり。
重たげに腰を立ち上げると欠伸。
荒々しい口付けの後とは思えない無表情で。

何事も無かったかのように、また傍で悠々と横になる。
色濃い余韻の中、和磨一人だけを取り残して。

「……期待なんか、してないよ。言われなくても帰るよ、君は夜まで寝る気?」

素っ気無い物言いでも涙を拭いながらでは格好が付かず。
どれくらい触れ合っていたのか。
傾き始めた陽は知らない間に西へと還る。
薄まる青の代わり、混ざった橙が眩しくなっていく頃。

「……さぁな、気紛れに帰る。……そのまま帰って襲われんなよ。」
「あ、そう……。誰に襲われるってのさ、また変な事言って……痛ッ!」

引っ掛かる言葉は、相変わらず乾いた口調で流される。
ソーダの残りを飲み干そうとして悲鳴。
散々噛まれて吸われた後だ、痛んで当然の唇を押さえた。


「あららv 和磨ってばどーしたさねvv」

含み笑いで揺れる声に、思い切り和磨が跳ね上がった。

いつの間にか屋上に新たな来訪者。
振り返れば、笑う金色。
冷徹を崩さない楔波と違う、紫亜の目。


襟足が長めで丸みのある、淡い栗色の頭。
陽の下だと云うのに青白い肌。
目だけでなく紫亜は全体的に色素が薄く、楔波より小さく細身だった。
兄弟と言われれば納得するが、似てない双子。

愉しげに細められた切れ長の目に幼さが残る鼻梁。
冷たく硬い男性的な兄に対し、中性的な弟は薄い笑みを絶やさない。
危うい艶を匂わせて、まるで小悪魔。

「いつから居たの、紫亜君……何でもないよ、炭酸がちょっと強かっただけ……」
「今さっきさねv ふふ、へぇ~炭酸がvv 目を紅くするほど強かったのさねv」
「…………」

溜息を吐いた楔波が「ほら来た」と言った気がした。
忠告したばかりだろうと。

あんな事の後の顔を紫亜にまで見られ、格好が悪いにも程がある。
手早く荷物を纏めて去ろうとしたのに。
紫亜に背中から張り付かれ、重みで何も出来なくなる。

「そう、こんなとこに何の用か知らないけど……、何でそんな僕の方寄るの?!
 あまり顔見ないで欲しいんだけど……」
「ホントはね楔波に用があったんだけど……
 くすくす、凄く色っぽくなってる和磨に釘付けになりそうさねv」
「嫌、だなぁ……僕が色気あるのは生まれ付きだって……」
「ふふv そうさね……v」


すぐ傍らに、楔波と同じく爬虫類に似た金色の目。
絡み付く様も蛇を思わせる。
射られたら動けなくなりそうで、視線を逸らした。

細くて綺麗な紫亜の手も、骨っぽさは確かに男。
制服のモノクロに深紅の爪が映える。

「……楔波に何かされた?」

和磨の髪を撫でて、剥き出しにした耳に囁く。
甘い低音が心臓を撃ち抜いた。
キスしていた場面を見ていたのではないだろうか、本当は。

「……ッ、別に……って、何かされたの前提で訊いてない?」
「ふふふv 勘かなv 何も無いならいいさね……でも、」

囁き声が途切れて、ぐいと近付いた顔。
和磨の唇を舌先が這った。

「少し血が出てるさねv 炭酸強すぎ?」

冗談めいた言葉で、三日月に吊り上がった口許。
舌舐め擦りで紅く濡れる。
容易く男に唇を触れられてしまった、二度目。


「ちょっと、何したの今……ッ!切っただけだよ、深い意味なんか別に……」
「くすくすv あーあー、そんな風に泣かれたら……っと、」
「紫亜、それくらいにしておけ。泣くぞこいつ。」

また和磨が泣けてきたところで、紫亜の声に嗜虐が混ざる。
けれど、身構えるより早く引き剥がされた。
身体二つの間を裂く大きな手。
割って入ってきたのは、先程まで横たわっていた楔波だった。

「ふふ、誰のせいさねぇ?」
「……お前もさっさと帰れと言ったろ。」

助け舟を出しておいて和磨には冷たい。
忠告を聞かなかった所為だと言いたげに、ほとんど睨む目。
余計に惨めで悲しい気持ち。
どうなったって、楔波には関係無いのに。

「だから、帰るって……絵の続きはまた来た時にするよ、君が居ない時に。」
「くすくす、嫌われたさね。」
「……いつものことだ。構わん。気を付けて帰れよ。」


涙が乾かないまま自棄気味。
慌しくバッグを抱えて、扉の向こうまで逃げ込んだ。
屋上を渡る風はもう聴こえない。

「気を付けて」なんて、よく言う。

其処から先は涙腺が壊れてしまった。
忘れてしまう事も、戻る事も、もう出来ない。




数日置いて彼女と別れた。

今までの恋は求められたら付き合い、主導権は相手任せ。
楽しくて安心出来れば良かったのに。
そのうち普通に結婚すると思っていたのに、もう駄目だ。

自分でも馬鹿だと和磨は思う。
きっと幸せにもなれない。

平穏な楽園を飛び出して、茨道の始まり。


*end

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