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== 梅染街 ==

群青失楽園〈2〉(楔波×和磨×紫亜)

色を変えようと、握っていた鉛筆を手離したところで良かった。
不躾な線を走らせてしまう危機は回避出来た。
台無しになるどころか、此のページを見るたび思い出すなんて勘弁。

「君ねぇ、脅かさないでよ……心臓に悪い。」

動揺は一瞬で和磨の全身に駆ける。
肩が跳ねたのも息を呑んだのも、大袈裟じゃない。

集中していたので全く気付かなかった。
ぼんやり考えながらも、目を背けて距離を置いていた存在。
けれど、あちらから無音を壊したのなら。
此方も応えよう、真正面から金色に立ち向かうまでの事。


「……これが、あの木か……ほぉ、上手いもんやな。」
「そう?ありがと、コレでも未来の芸術家だからねぇ。」

和磨の驚いた様子にも眉一つ動かさず楔波は淡々と。
動じない人だ、判っていたけれど。

楔波から誉め言葉を貰えるなんて思ってもみなかった。
嬉しさが素直に込み上げて緊張が解ける。
風に吹かれるままだった髪を直して、単純に得意顔。

将来、和磨が目指しているのは絵本作家。
父方も母方も芸術方面の才能があり、技術やセンスの血筋を受け継いでいた。

実際、既にネット上で絵師として活動しているのだ。
手掛けるジャンルは甘いメルヘンから毒々しいアングラまで。
VOCALOIDのプロデューサーと組んでいる為、知名度もそれなりに。
「龍実」の名前を持つ和磨の隠れた面。


「大きく出たもんだな……んっ、せいぜい頑張れよ。」
「ちょ……、髪はやめてよ、もうっ!直したばっかりなのに……」

大口は楔波に欠伸で聞き流される。
金茶の頭をくしゃくしゃ一撫ですると、近くのフェンスまで自由な足取り。
再び眠くなったらしく力を抜いて寄り掛かった。

「本当にマイペースだねぇ……、初めて逢った時より怖くないけど……」

和磨に声を掛けた事自体が策も無く気紛れ。
乱された頭を押さえての独り言、後ろの方はほとんど口の中。
桜の頃、冷たく突き刺された。
青葉を見下ろす今になって、頑なな苦手意識の表面が溶け出す錯覚。

「お前に俺の事をどうこう言われたくない……」
「あぁ、そう、聞こえてんだね……ま、そこはお互い様だろうけど。」

まさか返事があるなんて思わなかった。
目を閉じたままで耳と口だけしっかり起きている模様。
呟いた和磨の方は、視線が交わらずとも楔波をじっと見詰める。


スケッチの手なら驚かされた時から止まっていた。
フェンス越しに青空と新緑。
数歩離れただけの距離に混じった、冷静な漆黒に目を奪われて。
輝く初夏から其処だけ切り取られた色。

楔波が持つ、人を寄せ付けない雰囲気は少しだけ和らいでいた。
そうして改めて、野性味で綺麗な男だと思う。

切れ長の目と引き結んだ唇が精悍な顔立ち。
襟足が短めの黒髪、左耳に二つ三つ開けられた金色のピアスが映える。
やや色黒の肌は強い陽射しを恐れない。
ボタンを外したシャツが、筋肉質で骨張った曲線を浮き立たせる。
長身の和磨より肩幅も手も頑丈で大きい。

「……何や?」

気配を察したのか、そのままの体勢で楔波が問う。
疚しい訳でもないのに再び動揺。
今度は巧く呑み込んでから、平常を装って和磨も口を開く。

「いや、別に?興が削がれたって云うか、描く気分じゃなくなっただけ。」
「……そうか。」

楔波の返事は淡々と、それはそれで会話が長続きしない。
下手にお喋りしてもすぐ終わってしまうだろう。
何となく無言が気まずくて、打開する為にと軽く思考を巡らせる。


そこで探ったのは、スケッチ用具を入れていたバッグ。
冷たい汗を掻いた表面が指先を濡らす。
メロンが描かれたレトロなデザインの缶を取り出した。

和磨がスケッチのお供によく連れている物。
子供の頃の夏を思い出すメロンソーダ。

「……ソーダあるけど、飲む?僕のだけど。」
「……何やソレ。」
「メロンソーダ、何か飲みながら描こうかと思って。冷えてるよ?」
「めろん……何やソレは。飲みもんか……」

緩く持ち上がる瞼と、此方に動いた視線。
特に興味を引かれたようでもなさそうだったが。

それにしても、寝惚けている訳でなく本当に知らないらしい。
和磨にとっては懐かしいくらいの味なので驚いた。
「骨が溶ける」と親から禁じられて育ったのだろうか、よくある話。
どちらにせよ、きっと楔波には良い機会。

「うん、飲み物だけど……挑戦してみる?」

そこまで考えたところで、和磨がプルトップを引き上げる。
今まで閉じ込められていた炭酸が勢い良く弾ける音。
缶を差し出すにも野良猫に餌を与える気分。
無言のままでフェンスを軋ませ、骨張った手は伸ばされた。

初めて口にしたソーダが流し込まれ、軽く伸びた喉が一つ動く。
物事に無関心な楔波にとって小さくても確かな波紋。

「……ん。何や口の中変な感じや、水とは違うな。こんなん美味いんか?」
「僕は好きだけど、美味いかどうかは人それぞれってところかな。」
「……結構、刺激的なんが好きなんやな。」
「刺激か、そう返答が来るとは思わなかった……否定はしないけどねぇ。」

知らない味なら感想はそんなものか。
一口で返されたが、不快感とまでいかず飽くまで戸惑い。

缶が手元に戻ってきたところで、やっと和磨も飲み始める。
日陰に居座っていても、ただでさえ太陽に近い場所は水分を奪う。
ノスタルジックな甘ったるい匂い。
賑やかに弾けながら、渇いた身体に染み渡っていく。


「……間接キスやな。」

視線を外さないままでの不意打ち。
まともに喰らって、思わず和磨が咳き込んだ。


「あのね、君は何を小学生みたいな事言ってんのさ……」

今度は呑み込めなかった動揺。
思い切り見られてしまったからには誤魔化せまい。
それでも訝しむ顔を作って、強がり精一杯。

「……刺激的なんが好きなら、そういうのでも反応すんのかと思った。
 見事にやな。」
「飲み回しとか普通でしょ……第一、1本しか無いしコレは僕のだよ!」
「何、焦っとるんや。
 ……単なる飲み回しでも意識しとる奴とのは普通やないやろ。」
「飲んでる時は意識してなかったよ!焦ってるって、君が変な事言うから……」

和磨の必死な否定にも、零れ落ちていく砂に似て淀みなく乾いた返事。
片膝を立てて頬杖で軽く傾けた、変わらない無表情。
ただ此方に真っ直ぐ金色の眼を向ける。

和磨が受け止めるには、何だか息苦しい。
座り込んだ膝を抱えて顔を隠した。

「……変なことねぇ。なら、俺が後に飲めば良かったか。」
「結局言うんじゃ、あんまり変わらないと思うけど……あぁ、もう……」

少しだけ上げてみた顔は多分きっと赤い。
熱を自覚するなんてどうかしている、たかが飲み回し程度で。


そうやって膝ばかり見ていたものだから、気配の察知に遅れた。

静かに立ち上がって歩み寄られていた距離。
金茶の髪を乱暴に掴んで更に上を向けさせ、楔波が顔を近付ける。
冷たく鋭い眼の色が突き刺す。

「……その顔、紫亜には見せんなよ……」
「……え?ちょ……、痛いッ!」

意味が解からない、行動も言葉も。

小さく悲鳴を上げたきりの喉が息苦しくなる。
状況が理解出来ず、ただ怯えるだけ。


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