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== 永桃学園日誌 ==

青/蒼/藍(進之介+和磨)

設定は此方から

大人になりたくありません。


耳を突付く音は止む事を知らない。
飽くまでも澄んだ空色が広がっていても、木々が揺れればガラスが鳴る。
授業中、窓から小さく見えた車が強風注意報を放送していたっけ。
帰宅時を考えると嫌になってしまう。
落ち着かない昼食を早々と終え、進之助は箸を置いた。

どれだけ外が荒れていようと屋内に居る分には至って平和だが。
しかし、穏やかでない空気は教室の中にも一つだけ。
弁当もそこそこ時折に物憂げな溜息。
進之助の向かい側、先程から和磨が頬杖を突いたまま。

まぁ、特に気に留める必要も理由も進之助にはあるまい。
何しろ”変”と形容されるのが基本状態なのだし。
横目で眺めつつ、ポカリスエットを一口含む。


「んッ?!」

しかし視界が傾いだのは突然。
腕が滑った勢いで缶が口許から剥がれて大粒の雫が点々と。
進之助の袖を掴んだ和磨の所為。
軽く咳き込み顔を上げてみれば、此方に向けられた神妙な目。

「どうしたの、て聞きたまえよ君ぃ。」
「命令形かよ?」

それよりも食後の一杯返せ、残り少なかったけど。

「それどころじゃないよ、迫り来る現実を止められない無力さで一杯で。」
「意味解らん、要するに何考えてたん?」
「青春が終わってしまう虚無感、について。」
「…………は?」

理解しかねる発言は全く以って毎度だが、今回は意味が少し違った。
一体いつ、此の学園で青春したと云うのだろう……

部屋を荒らされたり、女子に振り回されたり、妙な噂を立てられたり、諸々。
どの思い出を掘り返しても進之助は苦い顔。
若さと躍動感が溢れる夢の時代を青春と呼ぶのではないのか。
もっと愉しい物じゃないのか、違うのか。
それに、和磨にもほとんど同じ事が言える筈だろうに。


「璃砂さんに脅されてもか?」
「深砂ちゃんと一緒の限り、どうせ長い付き合いになるし。」
「リリィさんに撃たれてもか?」
「購買部には行かなきゃ良いだけだし。」
「校長に追い掛け回されてもか?」
「それはちょっと……考えるかな……」

微妙な反応で良かった、話の進む兆しが見える。
泡塗れになるのは勘弁したいところだろうし、お互い。
けれど何と言って良いのかいまいち判らず。

「青春の事考えてブルーになる、て何か駄洒落っぽいな……」
「そこにマリッジブルーとマタニティブルーも混ざるよ。」
「お前いつ妊娠したんだよ?!」
「あぁもう、兎に角スチューデントブルーの真っ最中なんだよ、僕は!」
「ツッコミは全部置いとくとして、その意味は?」
「卒業したくない、て憂鬱。」

ああ、と進之助が納得したのは其処で漸く。


三年生が巣立つ準備は着々と始まっているのだった。
色々あったが、寂しくないと言えば嘘になる。
授業が終わってからも学園内に身を置く寮生ならば尚更。

けれど、和磨が憂えるのはとても意外で言葉に詰まった。
特定の興味以外は無関心を貫いている彼の事。
卒業に対しても”如何でも良い”の姿勢だとばかり思っていたのだが。
でなければ、喜びで待ち切れないでいるか。
春から本格的に美術の道に進み、彼女と同棲するのだと聞いていたのだ。
去年プロポーズされたらしいし。
そう云えば自分達はもう結婚も車の運転も許された年齢。
意思さえあれば、の話ではあるが。


「愛着無いから清々した気持ちだったのにさ、幼稚園から中学まで。」
「確かに、和磨がそんな事で泣くのって想像出来ねぇな。」

随分と可愛くない子供だと思いつつも頷く。
きっと今と変わらないままだろう、想像したら小さく笑ってしまった。
和磨の方は表情に憂鬱が濃くなっても。

「学校なんて僕には性に合わない場所だよ、団体行動って苦手だし。」
「もうすぐ解放されるんだから良いじゃねぇかよ。」
「だよね、それに好きな事を仕事にして、結婚、子供……に一歩近くなるのに。」
「若しかして不安なん?」
「そうじゃない、のに心から喜べないのが変なんだ。」
「へぇー……」

そうか、マリッジやらマタニティやらの単語は其処からか。
密かに左右の手を打ち鳴らす。
言われなければ、さっぱり意味不明のままだった。
幸せな未来よりも窮屈な筈の今から抜けたくない、か。
何となく解るような気はしても、進之助は溜息で吹き飛ばした。

「悩むのはまだ早いだろ、”来年の事を言えば鬼が笑う”って言うじゃん。」
「まったく守君は解ってないねぇ、鬼って笑い上戸なんだよ?」

嫌味ったらしい口調は聞き慣れた物。
そうですかー、と進之助もヤル気無く返していつもの調子。
吐き出したら戸惑いも軽くなったようで、和磨が口許を緩めた。


「良かった、守君は”留年すれば?”とか言わないんだね。」
「深砂だよなソレ。つーか、先の事考えるより早く弁当食えっつの。」
「僕もう胸一杯で入んないもん。」
「ったく……」

相手するのは一苦労どころでは済まない。
疲れた顔で同じように頬杖を突けば、制服の肘が冷たい。
先程零れたポカリスエットの所為か。

無色だし染みにはならないだろう、そう思ってから気付く。
もうすぐ着る必要が無くなると云う事実。


二月は始まっているのだ、既に。
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